2008年12月1日月曜日

「津野海太郎/おかしな時代」

バラエティブック好きにとっては読むしかない!という本が出て、早く紹介したかった。

おかしな時代
津野 海太郎
4860110862


「本の雑誌」での連載(「サブカルチャー創世記」2004/7-2008/7)を知った時から単行本になったらすぐに読もう、とチェックはしてたんだけど、実際に書店で平野甲賀氏による、いかにも平野氏らしいギンガムチェックの装丁に出くわしたときは、本当に生唾を飲み込んでしまった。

知ってる人には書くまでもないけど、著者の津野海太郎は、小野二郎・高平哲郎とともに晶文社を語る上で欠かせない名編集者。その彼の半生伝だから面白くないわけがない。

しかし、前半を中心に半分以上は彼がコミットしていた演劇(「黒テント」とか)の話だったりして、正直言うと最初はそのあたりは飛ばして晶文社関係の部分だけ読もうと思っていたんだけど、頭から読み始めたら文章の軽妙さもあって、興味のなかった部分もぐいぐい読まされた。
それが津野海太郎という人物の面白さなのだろう。

ところがキモである6章「雑誌みたいな本がいい バラエティ・ブック」の直前まで読んだところで、この本が携帯するには大きすぎることもあって、しばらく読むのをとめてしまい、先日ようやく一気に読了して紹介にこぎつけたのだった。
好物は最後に食べるタイプなもんで。

それにしても、その6章と7章にして最終章「夢と現実 ワンダーランド」は本当に面白い。

ヴァラエティブックに関しては、

「それなら雑誌みたいな編集の本にしてしまおう。―とすぐにかんがえたわけではない。最初におもいうかべたのは植草さんの例の(自分が書いた原稿の切り抜きがぎっしりと詰まった:引用者補足)古い革のトランクだった」
「いっそ、あの革トランクをそのまま本にしてしまったらどうだろうか。ただの比喩ではない。平野と相談して、コラージュや手がき原稿のコピーをふくむ色とりどりの紙片やパンフレットを、トランクがわりの紙函に賑やかにつめこんでさ、などとけっこう本気でかんがえたのである。玉手箱。もしくはヴァラエティ・ボックス―。」
「(前略)と書いて、あらためて気がついた。植草さんだけでなく双葉(十三郎:引用者補足)さんも小林(信彦:引用者補足)さんも、小野耕世さんや筒井康隆さんも、当時はそれぞれに、たとえていえば、本にまとまるかどうかもわからない切り抜きを大量につめこんだ革トランクをもっていて、そのなかみを私のような編集者が自由につかわせてもらうことができた。そういうぜいたくな条件がなければ、充実したバラエティ・ブックなどつくりようがない」
「そして七〇年代後半になると、晶文社の刊行リストからこの種の本がしだいに減ってゆく。私があきたという理由もあったのだろうが、それ以上に、世間にサブカルチャー本やエンターテインメント本が急増し、それにつれて著者のトランクのなかの蓄積がとぼしくなってしまったのだ。」

と書かれており、これはまたなるほどなぁと思うのだった。

たとえば小西さんの最初の著作「これは恋ではない。」なども小西さんがいわば革のトランクを秘蔵していた状態だったからあそこまで面白かったんだろう。今年出た二冊目の「ぼくは散歩と雑学が好きだった。」は気合いの入ったバラエティブックだったけど、正直「これは恋ではない。」には勝てなかったもんなぁ。

ちなみにその「ぼくは散歩と雑学が好きだった。」について、かつての小西さんの盟友・橋本徹氏が小西氏への愛憎半ばする感情とともに書いた文章がとても面白かった。

それにしてもその晶文社が最近出したバラエティブックであるこちら、

雑談王―岡崎武志バラエティ・ブック
岡崎 武志
4794967268


内容はいつもの岡崎武志以上でも以下でもなかったけど、編集センスはやっぱりひどかったなぁ。

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雑誌「ワンダーランド」に関しては、

「じゃあ私たちは「ローリングストーン」誌の「日本語版」をそんなに本気でつくろうとしていたのかとなると、正直いって、そこのところはいささかあやしい」
「たしかに私と平野は「ローリングストーン」の新聞形式の雑誌というつくりにひかれていた。でもそれは、極端にいえば、その点さえ実現できればあとはどうでもいいや、という感じに近かった。」

という部分は要チェック。

その他、小林信彦や片岡義男について書かれた文章も面白い。オススメ本。

なお、「ワンダーランド」や「ローリングストーン」日本語版に関しては、これらの本とともに読むとより分かると思う。

ぼくたちの七〇年代
高平 哲郎
4794966024


よりぬきスネークマンショー 「これ、なんですか?」
スネークマンショー
410465101X


後者は、確か「ワンダーランド」が生まれるきっかけとなった日本語版「ローリングストーンズ」について書かれていたと思う。違う本だったらごめんなさい、読んだんだけど手元にないもので確認できません。

でもそう考えると日本語版「ローリングストーン」が「ワンダーランド」という私生児を産んで、そこから「宝島」、「VOW」などが育ち、一方で「スネークマンショー」を産んだ、ということになり、サブカルチャー史的に面白い。

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