2007年10月29日月曜日

ヴァラエティブックの話は「ワンダー植草・甚一ランド」からはじめよう。

先日、突然見知らぬ人からメールがきて、なんだろう?と思ったら、3年前に作った個人誌を買いたいとのこと。ここ1年以上、まったく在庫が減らなかったのと作ったのはもう3年前かぁと、両方の理由でビックリした。
ちなみにまだ在庫ありますんで、こちらの宣伝を見てほしい方がいましたら、喜んでお売りします(笑)。

この本については何度も書いたけど、いわゆる晶文社を起源とする「ヴァラエティブック」を模して作ったもので、そのヴァラエティブックに関してはこちらでまとめているのでどうぞ。
その注文してくださった方も「ヴァラエティブック」で検索していたら当サイトに行き着いたそう。

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さて、現在そんなヴァラエティブックの元祖的な存在である植草甚一氏の展覧会が、世田谷文学館にて開催されている(2007/11/25まで)。

10/28に元ピチカート・ファイブの小西康陽氏と小梶嗣氏による「きょうの話は「ワンダー植草・甚一ランド」からはじめよう。」なるトークショーがあり、その事前申込をしていたので、本日ようやく観覧に出かけたのだった。

まずはトークショーのレポート。参加料は1000円で、1時間程度。定員150名と書いてあったけどほぼ満員ぽかった(最前列に座れたので、後ろの方は見なかった)。
小梶嗣氏って誰??と思っていたら朝日新聞社の方だそうで、なんでそんな人が?と思ったら、小西さんの「これは恋ではない」(幻冬舎)につづく第2コラム集、というかヴァラエティブックを編集中だそうな。来年2月あたりに出版予定だとか!
会場にはスクラップマニアという彼が作ったというスクラップブック(雑誌をベースにその上にお気に入りの記事を貼り付けて透明のテープでコーティングしたもの)が多数展示されていた。その編集中のコラム集もスクラップブックバージョンというか、見本のようなものがあるらしくて持ってきていた。どうも、絵や写真などもふんだんに入ったものになってるっぽい。これは期待大。
なお小西氏は今となってみると「これは恋ではない」はそれほどいい出来の本ではない、と語っていた。もっとも謙遜もあると思う。
さて、トークショー自体は、小西さんは会場に知り合いがいたこと、小梶嗣氏は晶文社の人がいたこと、そして年季の入った植草マニアみたいな人たちがいたことなどで序盤は少々あがり気味だったものの、たどたどしく(笑)進行。
ちなみに会場には、今回の宣伝物アートディレクションも担当した信藤三男氏(世田谷区在住)のほか、小西氏の奥さん(長谷部千彩)もいたっぽい。
トークの内容自体はなかなか面白くて、その中でも覚えているネタをメモ。
・トークショーのタイトルは彼らが考えたものではなく、文学館側からお題として出されたものだとか。
・ただ2人とも、「ワンダー植草・甚一ランド」から話を広げるというのは正しい、という。
・「ワンダー植草・甚一ランド」の初版(1971年12月25日)は3000部。
・小西さんが1971年の大晦日、北海道札幌の書店にて手に入れたものは、不思議なことに第3刷。この3刷の年月日は特に言ってなかったので分からず。
・小西さんの「これは恋ではない」は現在、絶版。総部数は28,000部とのこと(少ない!)で、大体「ワンダー植草・甚一ランド」の総部数と同じぐらいではないか、とのこと。
・小梶嗣氏は今回のトークショーのために「ワンダー植草・甚一ランド」を通読してみようとするも挫折。通読することになんの意味もない本であることを改めて確認したそう。
これはとてもよく分かる。
・ちなみに現在出ている「ワンダー植草・甚一ランド」は21刷で、僕が持っているものは1997年6月20日付の19刷。
ワンダー植草・甚一ランド
植草 甚一
4794955014

なお年譜によると1995年11月に晶文社創立35周年を記念して復刊されたそう。確かにそれまでは古本屋でしか目にしたことがなかった。
・小西氏は「ワンダー植草・甚一ランド」「これは恋ではない」の他、「太陽1995.6 特集・植草甚一」などを持参。小梶嗣氏は「知らない本や本屋を捜したり読んだり」「植草甚一主義」などを持参。
・小西さんも小梶嗣氏も植草甚一の中で一番好きな本は「知らない本や本屋を捜したり読んだり ワンダー植草・甚一ランド 第2集 アメリカ篇」だそうで、二人とも自分で所蔵しているものを持参していた。
・小梶嗣氏は晶文社のシリーズ植草甚一倶楽部(1994)は、テキストのみの編集だったので手には取ったけど買わなかった、という。小梶嗣氏はその時に「自分は別に植草甚一のテキストが好きなわけではないのでは?」と自覚したそう。
ちなみに僕は1999年11月頃に、自分のwebでこのシリーズの「収集誌」「散歩誌」、ランティエ叢書「植草甚一/古本とジャズ」(角川春樹事務所,1997)について書いている。これらの本が出るまでは、植草甚一の文章を新刊書店で探すのは難しかったと記憶している。
・小梶嗣氏はその後、「ワンダー植草・甚一ランド」以降の植草甚一というのは、ユニット名~植草本人、津野海太郎、平野甲賀を中心にときどき片岡義男などが入ってくる~と捉えた方がいいのでは?という考えに至った、という。この話は面白かった。
・今回の展覧会は、両氏にとってはいまひとつ、らしくて、というのも晶文社が所蔵していた大事な旧蔵資料を北海道のある書店(成美堂書店?)が返してくれてないから画竜点睛を欠く状態なんだそう。
この件はそこでの断片的な話とネットでちょっと調べたことをあわせてみると、どうやら2002年に小樽文学館で開催された「小樽・札幌喫茶店物語」展の際に晶文社が資料を貸し出して以後、その資料が戻ってこないということらしい(これは憶測が入った不確実な話です)。この未返却は何らかの事情があるらしい。
・その問題の書店は小西氏が札幌時代によく通った店で、先述の「ワンダー植草・甚一ランド」を手に入れたのもそこだそうな。奇縁。
・ちなみにそれらの旧蔵資料は「太陽1995.6 特集・植草甚一」やそれを元にして編まれた「植草甚一スタイル」(平凡社コロナブックス)にて見られるそうな。僕は前者の雑誌をネット古本屋で手に入れて喜んでいたら、少し後に後者のムックが出ちゃって、そちらは意地で買ってない。
植草甚一スタイル (コロナ・ブックス (118))
コロナ・ブックス編集部
458263415X

・途中、植草甚一が出演している桜田淳子主演映画「愛の嵐の中で」(1974)からの出演シーン2カットをビデオで上映。小梶嗣氏はしゃべっている映像を初めて見たそうで、思っていたキャラクターと違っていて見なければよかったかも、と言ってた。
・今回の植草甚一展には特徴があって
 1.図録がやたらと売れる
 2.残念ながら失念。普段と客層が違うとか若い人が多いとか、そんなんだった気がする。
 3.中高年の女性の姿が少ない(若い男女、中年男性はいるけど……)
3が植草甚一の魅力を表しているのでは、とのこと。なるほど。
・ちなみに来年は植草甚一生誕100周年だそうな。この展覧会を企画した学芸員の矢野氏は特に意識していなかったとか。
以上、覚えてる部分を書いてみた。こうしてみると、けっこう濃い内容だったのかもしれない。
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トークショー後に見た展覧会は著作物や書簡中心で、確かに「太陽」で見た本人のスクラップブックなどは見られず残念。
マッチ箱に入った切手のコレクションなんかはイームズ展で見た彼らのコレクションを思い出した。
また、昔の人は手紙をたくさん書いたんだなぁと感心した。しかも、そこにちょっとしたイラストやコラージュを入れる、ってのはなかなかマネできない。
植草氏の字がまた、少しかわいらしく、でもとても魅力的で、直筆原稿を見るのはなかなか楽しい。「植草甚一コラージュ日記」なんかでも確認できるけど。
植草甚一コラージュ日記〈1〉東京1976
植草 甚一 瀬戸 俊一
4582831869

確かに全体的にはすごい展覧会という感じではなかった。思ったより小規模だったし。でも、トークショーの面白さと資料性の高い図録(読み物としてはあんまり面白くないですよ)の援護射撃もあって、個人的には満足だった。
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展覧会からの帰り道、今の世の中に植草甚一的なものってたくさんあるなぁと思ったけど、たとえば出来のいいblogなんてそうだろうし、あと先日紹介したBSフジ「所さんの世田谷ベース」ってどうでもいい知識を披露したり気に入ったものを改造したり、ってやってることがまんま植草甚一だよなぁ。所さんは現代の植木等かと思ってたけど、植草甚一なのかもしれない。

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